「無生物主語構文(名詞構文)」とは、人間ではないものが主語になっている文のこと。日本語で言うところの「擬人法」ですが、英語では、この無生物主語構文が日本語よりも多くみられます。
無生物主語構文は直訳のままでも意味を理解できることは多いですが、和訳問題が出題された場合は、基本的に意訳が求められていると考えてください。また、和訳が出題されない大学を受験する方も、こうした意訳のプロセスを知っておくことによって、読解の理解度が上がりますし、内容一致問題での言い換えに気付く練習にもなります。今回は、無生物主語構文[名詞構文]の訳し方を解説します。
無生物主語構文[名詞構文]の訳し方
無生物主語構文[名詞構文]は、以下の4つのステップで訳すことを心掛けてください。
- 主語を副詞的に訳す
- 目的語を主語的に訳す
- 他動詞を自動詞的に訳す
- (できれば)主語の名詞に動詞を補って訳す
以下の英文を例にとって考えてみましょう。
Her smile makes me happy.
この英文は、直訳すると
「彼女の笑顔は私を幸せにする」
です。この程度の短い文であれば、このような直訳も許容範囲内ですが、これをよりこなれた和訳にしてみましょう。
ステップ1:主語を副詞的に訳す
無生物主語構文の和訳に当たっては、この「主語を副詞的に訳す」ということが一番肝心です。しかし、慣れていない人にとっては、「副詞的に」とはどういうことかが分かりにくいかもしれません。
「副詞的に」とは、「副詞節を導く何かの接続詞っぽいつながり」と考えてみてください。例えば、 because っぽい「~ので、~ために」, when や if っぽい「~すると、~すれば」などです。今回の主語「彼女の笑顔」に、そういった日本語をくっつけられないか?と考えます。
ただし、どの接続詞を使うかは もちろん文脈によって異なります。すぐに適当な接続詞が思いつけばよいのですが、そうでないと「いったいどの接続詞を使ったらいいのか?」ということで悩む人もいるかましれません。
そこで、もし適当な接続詞がすぐに思いつかなった場合は、とりあえず
「~によって」
と訳してみることをおすすめします。これでもだいたい意味は通りますし、そのままでよいこともあります。その後で、もっとよいつながりがないか?を考えるとよいでしょう。
ちなみに「~によって」 は by ~ の和訳にあたります。前置詞+名詞=副詞句 ですので、この訳も「副詞的」ですね。
さて、前置きが長くなりましたが、今回の例文 Her smile makes me happy. について考えます。直訳は本来
「彼女の笑顔は…」
となるところですが、これをとりあえず
「彼女の笑顔によって…」
としてみます。
ステップ2:目的語を主語的に訳す
次のステップは、「目的語を主語的に訳す」ということです。Her smile makes me happy. の目的語である me は、本来「私を」と訳すところですが、これを「私は」と主語的に訳します。
ステップ1から続けると、
「彼女の笑顔によって、私は…」
となります。
ステップ3:他動詞を自動詞的に訳す
ここまで来れば、あとは深く考えなくても訳せる人も多いと思いますが、一応次のステップとしてご紹介するのは、「他動詞を自動詞的に訳す」ということです。
文法が苦手な方は「自動詞」「他動詞」と聞くだけで、拒絶反応があるかもしれませんが、大したことはありません。無生物主語構文は多くの場合は、人に対して何かを働きかける「使役」っぽいニュアンスがありますが、そのように働きかけられた人間側はどうなるのか?と考えてください。
例えば、「(物が)(人を)止める」(※他動詞)という表現では、止められた側の人間は「止まる」(※自動詞)ことになりますね。「(物が)(人に)思い出させる」という表現では、思い出させられた側の人間は「思い出す」ことになりますね。
この要領で、今回の例文「彼女の笑顔は私を幸せにさせる」を考えると、
「彼女の笑顔によって、私は幸せになる」
となりますね。これでとりあえずの和訳ができあがりました。これでも意味は十分通じます。
もっとも、このように考えずとも、
「彼女の笑顔によって、私は幸せに…」
という日本語を見れば、自然に「…なる」という言葉が思い浮かぶのではないでしょうか。それでOKです。
それでも、生徒の和訳を採点していると、
「彼女の笑顔によって、私を幸せにする」
「彼女の笑顔によって、私は幸せにする」
「彼女の笑顔によって、私を幸せになる」
のような、ステップ2,3がしっかりできていない(直訳と意訳が混じった)日本語としておかしい訳をたまに見かけます。ケアレスだとは思いますが、このような和訳をするくらいだったら、直訳のままの方がずっとマシです。このような間違いをしないよう、書いた和訳は必ず読み直してください。
さて、ここでちょっとステップ1の内容に戻ります。「~によって」でも悪くないのですが、あえてそれとは別の接続詞的なつながりを考えてみましょう。
一つは because っぽい「~のために」(理由)が考えられます(※正確には because of)。
「彼女の笑顔のために、私は幸せになる」
この文脈ではイマイチな和訳かもしれませんが、「彼女の笑顔が理由で私は幸せになる」は、解釈としては間違っていません。あるいは
「彼女の笑顔で、私は幸せになる」
とする手もあります。どちらかと言えばこの方が日本語としては自然ですね。「~で」は便利な助詞で、「手段」とも「原因・理由」ともとれます。
いずれにしても、無生物主語が「理由」を表すことは多いので、この可能性は一度頭の中で試してみるとよいでしょう。
ステップ4:(できれば)主語の名詞に動詞を補う
さて、「彼女の笑顔によって、私は幸せになる」でも悪くはなかったのですが、もう1ステップ日本語を工夫すると、さらにこなれた訳になる場合があります。
主語である名詞に、どうにかして「…する」という動詞っぽい表現を付け加えてみてください。つまり、
「彼女の笑顔…することによって、私は幸せになる」
ということです。どんな動詞を加えて日本語にしたらよいでしょうか?
正解は、
「彼女の笑顔を見ることによって、私は幸せになる」
です。「笑顔」に「を見る」という動詞を付け加えました。
さらに、ここまで来たら
「彼女の笑顔を見ると私は幸せになる」
とするともっとすっきりします。このほうがよりこなれた日本語に聞こえないでしょうか。
(※このように「~すると」と訳す場合、相当する副詞節の接続詞は when または if と考えられます)
このように、無生物主語構文を訳すときは「名詞に動詞を補う」ことができるかどうか是非考えてみてください。ただし、うまくできないこともたまにあるので、ちょっと考えて思いつかない、またはそこまでする必要ながなさそうな場合は、ステップ3まででよいです。
おさらいすると以下のようになります。こなれた訳にするプロセスを確認してください。
Her smile makes me happy.
直:彼女の笑顔は私を幸せにする
〇:彼女の笑顔によって私は幸せになる
◎:彼女の笑顔で私は幸せになる
◎:彼女の笑顔を見ると私は幸せになる
練習問題/無生物主語構文[名詞構文]でよく使われる動詞
無生物主語構文[名詞構文]では、よく使われる動詞があります。それぞれの例文をいくつかご紹介しますので、練習問題として、慣れていない人はステップ1~4を意識しながら、慣れた人はすぐにこなれた訳(「◎」の訳)ができるよう、和訳してみてください。
prevent, keep, stop
The blizzard prevented us from seeing the other end of the bridge.
Her fear of heights kept her from enjoying the flight.
Your advice could stop him from leaving his family.
make, cause
My failure to help him made me feel miserable.
What made him stay home?
His behavior caused me to laugh.
enable, allow, make it possible for…
This software enables us to finish this task more quickly.
Writing allows us to develop our ideas, thoughts, feeling and so on.
Modern technology has made it possible for people to communicate more efficiently.
take, bring, lead
This bus takes you to the station.
This street leads you to the station.
His ability took him to the top of his field.
His hard work led him to his present success.
remind
This picture reminds me of my childhood.
This song reminds her of the time when she lived in Canada.
cost
Building a new house cost me a fortune.
One mistake can cost a person his life.
save
The GPS system saves people a lot of time and effort.
An email from Nancy saved me the trouble of calling her.
say, show, tell, suggest
The newspaper say that there was a heavy rainfall in Okinawa last night.
The report shows why children are more likely to suffer air pollution.
The report shows that brain size does not correlate with intelligence.
see, witness
The 18th century saw the American Revolution.
The country has witnessed heavy floods in 10 states.
和訳の練習ではありませんが、以下のような問題が出題されたことがあるのでご紹介しておきます。
問:日本語の意味を表す英文になるよう、空所に入れるのに最もふさわしい語を選べ
「この100周年の月だけでも、36近くの出版物が刊行される予定である」
This centennial alone will ( ) the publication of nearly three dozen titles.
① hear ② show ③ see ④ make 【早稲田・教育(改)】