in fact と言えば誰もが知っている熟語で、意味は「実際(は)」と覚えている人が多いと思います。しかし、「実際」と訳して「なんか変だなぁ」「しっくり来ないなぁ」と感じた経験はないでしょうか?ここでは、in fact の本当の意味・使い方を深く掘り下げてご紹介します。
in fact を「実際」の意味で使う場合
まず in fact について、ジーニアス英和辞典第3版を見てみると、以下のような記述があります。
- [前言を補足して](見かけとは違って)実際は、事実上は;その証拠に
- [前言を要約して;文頭で]つまり、要するに(in short)
- [通例否定文の後で前言を強調して](…と言ったが)いや実際は、それどころではなく(さらに)、(思い切って)はっきり言えば、さらに[もっと]言えば
多くの人が in fact の意味として覚えている 1 の意味「実際は」は、「見かけ(予想)とは違って」という訂正の文脈で使うものだということに注意してください。例えば以下のような場合です。
- She looks very friendly, but in fact she’s quite selfish.
彼女はとても親しげに見えるが、実はかなり自分勝手だ - It may sound straightforward to you, but in fact it’s all very complicated.
それは簡単に聞こえるかもしれないが、実際はとても複雑だ - I thought that I had lost everything – but in fact I gained more.
私は全てを失ったと思っていたが、実はより多くのものを得た
この意味の in fact では、文の前半に look, seem, sound, think, he said など何らかの先入観や誤った情報を示す表現があります。そして、in fact に続く後半で、前半の内容を否定(訂正)する事実が述べられます。このような文脈で使われる in fact は「実際は」です。また、この使い方では、多くの場合、but in fact のような形で逆説の接続詞と共に使われるということも目印になります。
in fact で一番多い意味「もっとはっきり言えば」(具体化)
しかし、私の経験上、英語の文章で見かける in fact の意味で最も多いのは、以下の 3 の意味です。
- [通例否定文の後で前言を強調して](…と言ったが)いや実際は、それどころではなく(さらに)、(思い切って)はっきり言えば、さらに[もっと]言えば
この「前言を強調」という説明はちょっと分かりにくく、私は「前言を具体化」と考えることをオススメしています。簡単に言うと、in fact とは具体化の目印なのです。以下の例文を見てください。
- She doesn’t like him much – in fact I think she hates him.
彼女は彼のことをあまり好きではない。もっとはっきり言えば(それどころか)大嫌いだと私は思う。 - She is not married. In fact, she doesn’t even have a boyfriend.
彼女は結婚していない。もっとはっきり言えば(それどころか)彼氏もいない
この意味の in fact では、文の前半に、オブラートでくるんだような何らかの抽象的な表現があります。それを、in fact の後の後半で、より具体化した、言ってみれば事実をぶっちゃけた内容が述べられます。
ではこの in fact をどう訳したらよいでしょうか?要は「ぶっちゃけ」ということなのですが、さすがに下線部和訳にそうは書けません。一つには、「具体化」という意味合いを踏まえ、ストレートに「具体的に言えば」と訳す手があります。そしてこれをちょっと崩すと、「(もっと)はっきり言えば」となり、この訳は辞書にもよく書いてあるので、無難にオススメです。また、この用法の in fact は、その前後の内容が対照的なつながりになることが多いので、「それどころか」と訳すとしっくり来る場合も多いです。
さて、ここでこの訳を、「実際」という言葉に置き換えてみてください。分からないことはありませんが、前後のつながりが今ひとつピンと来ないはずです。上の例文は内容が簡単なので、「実際」と訳してもさほど困ることはないかもしれませんが、難解な論説文で出てきた場合はちょっと問題です。英語の論説文は、基本的に「抽象⇒具体」の形で論理展開されるので、具体化の目印(ディスコースマーカー)を意識できるかどうかは、読解の大きな差となって表れるでしょう。
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以下は法政大の入試問題の一節です。
- But this desperate need for constant connection and stimulation is not a modern problem. I would argue that we have always sought a state of constant connection from the dawn of time, it’s just never been possible until now. The need to be connected, in fact, very basic. It may even explain the largest and most fundamental.
しかし、常に(人と)つながっていたいとか(人から)刺激してもらいたいというこの欲求は、現代の問題ではない。我々は太古の昔からずっと、常につながった状態を求めているが、それは今日まで実現できていないだけなのだ。もっとはっきり言えば(それどころか)、つながっていたいという欲求は、非常に基本的なものだ。それは、最も大きく、最も根源的な欲求とさえ言えるかもしれない。
この例では、前半で「つながっていたいという欲求は現代の問題ではない」と言っています。それを後半で、「(現代の問題でないどころか)人間の根源的な問題だ」と、より突っ込んだ見解を述べ、具体化しているのが分かるでしょう。「実際」と訳すのとどちらがよいか考えてみてください。
尚、ジーニアスでは、この使い方の in fact は「通例否定文の後で」と説明されていますが、肯定文の後で使うことも珍しくありません。以下は立命館大の入試問題の一節です。
- This sequence was accomplished by attaching a cable to the car so that no contact as ever made with the animals. In fact, the car is never less than 25 feet away from the cows. When the cable is pulled, the car comes to a hard stop, creating the effect of hitting an object. The cow was actually computer generated in post production.
この一連のシーンは、車が動物(牛)に接触しないよう、車にケーブルをつけて撮影された。具体的に言うと、車は、牛から25フィートも離れた状態にされている。ケーブルが引かれると、車は急停車し、物体に衝突したかのような効果を生み出す。その牛は、実は撮影後の編集で付け足されたものなのだ。
このように、前半が肯定文の場合もあります。この文章では「25フィートも離れている」という具体的な数字が、前半の内容の具体化と言えるでしょう。
この in fact が設問で問われることもあります。以下は英検準一級のリーディング問題の一節とその設問(空所補充)です。
- Minimalism is a movement to help people make their life simpler by reducing what they own. Its follower aim to shop less, reduce the number of their possessions, and live in smaller spaces. They say, however, that it is not only about cleaning out one’s closet to reduce junk or buying less to help the environment. ( ), they make the bold claim that life is more satisfying when one is not distracted by all the physical objects that most people accumulate.
1. Otherwise 2. In this way 3. In fact 4. As before
正解.3
ミニマリズム(最小限主義)とは、人が所有するものを減らすことによって生活を簡素にすることを助ける活動のことである。その信奉者は、買うものを少なくし、持っているものを減らし、より小さいスペースで生活することを目指している。しかしながら、それは単にゴミを減らすためにクローゼットを掃除するとか、環境を守るために買うものを減らすということではない、と彼らは言う。具体的には、人は蓄積している全ての物体によって気を散らされないほうが生活はより満足するものになる、と彼らは大胆な主張をしている。
空所の前で言っている「それは単にゴミを減らすためにクローゼットを掃除するとか、環境を守るために買うものを減らすということではない」という見解は、not only という言葉からも推測できるように、まだはっきりとした主張に至っていません。これがその後の文で、「人は蓄積している全ての物体によって気を散らされないほうが生活はより満足するものになる」という、よりはっきりした主張(bold claim)に言い換えられています。よって正解は「具体化」の in fact で、訳もあえて「具体的には」としてみました。尚、ここではジーニアスの言う「通例」通り、in fact が否定文(not only)の後で使われています。
以下は早稲田大学(政経)の入試問題の一節です。
- The best evidence of this is the fact that luxury-goods makers have not had to cut their prices in responses to the knockoff boom – indeed, they’ve been able to raise them consistently. In fact, given the importance to fashion of what law professor Jonathan Barnett calls “aspirational utility” – the enjoyment people get from imitating the lifestyle of the rich and famous – the enjoyment people get from imitating the lifestyle of the rich and famous – one might think of knockoffs as being like gateway drugs: access to the lower-quality version makes buyers all the more interested in eventually getting the real stuff.
このこと(※ファッションについては、たとえ値段が高くても偽ブランドではなく本物を買ってくれる人がいるということ)を示す最も良い証拠は、高級メーカーが偽ブランドブームへの対抗措置として値下げをしてはいないという事実だ。それどころか、彼らは常に値上げをしている。もっとはっきり言えば、法律学教授のジョナサン・バーネット氏が述べるところの「憧れの有用性」― 人々が金持ちや有名人のライフスタイルを模倣することによって得られる喜び ― を考慮すると、偽ブランドとは「入門薬物」のようなものであると言えるかもしれない。つまり、低品質のものを持つことによって、よりいっそう本物を手に入れたいという欲求が増すということである。
この文章が面白いのは、indeed と in fact という、二つの具体化表現があるということです(indeed には in fact とほぼ同じ「具体化」の意味があります)。まずは「値下げをしてはいない」というオブラートにくるんだ表現があり、indeed の後に「常に値上げをしている」という一つ目の具体化があります。そして in fact の後には「入門薬物(高いものを買わせるための安いもの)」という、ちょっと過激な表現の二つ目の具体化があり、二段階の具体化をしているのです。
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まとめ
尚、ジーニアスの 2 の意味「[前言を要約して;文頭で]つまり、要するに(in short)」に関しては、適当な用例を見つけることができませんでした。複数の英英辞典を確認しましたが、この意味自体が記載されておらず、この意味については覚えなくても差し支えないと考えています。
結論として、in fact は以下の2つの意味・用法を、はっきり区別して覚えておくことをオススメします。
- [具体化](もっと)はっきり言えば、それどころか
- [前言の訂正](しかし)実際は
(先入観・誤った情報をを示す内容の後で。多くは but in fact という形で使われる)
繰り返しになりますが、in fact で一番多い使い方は「具体化」です。in fact とは具体化のディスコースマーカーになります。この用法のときに、「実際」と訳すことはオススメしません。致命的に困ることはないかもしれませんが、得をすることはありません。是非、in fact は「(もっと)はっきり言えば」と「それどころか」と訳す習慣をつけてください。長文を読んだときにより深い読解ができるはずです。
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