「単語がなかなか覚えられない」「覚えてもすぐ忘れてしまう」「単語をどう勉強したらよいか」という相談をよく受けます。そこで、私がいつも生徒にアドバイスしている単語の覚え方や勉強法のコツをまとめてみました。既に実践していることもあるでしょうが、まだ実践していないことがあったら、一つでも二つでも是非試してみてください。
例文で覚える
当たり前のことだと思いつつ、あえて最初に挙げたいのは「単語は例文で覚える」ということです。この当たり前のことをせず、単語帳の見出し単語とその意味だけを一対一で覚えようとしている生徒が多いことにいつも驚かされます。それでは単語が頭に入らないのも無理はありません。
人間の記憶は、丸暗記よりも、ストーリーに結び付けたほうが脳に定着しやすいという研究があります。その「ストーリー」こそがまさに例文なのです。特に難しい単語ほど、例文があるからこそ覚えられると言っても過言ではありません。例文は暗記するつもりで読み込み、単語はその例文の中で覚えるようにしてください。そうすることによって、例文に含まれる他の単語もまとめて覚えることができますし、その単語の使われる文脈や、コロケーション(名詞・形容詞のつながりや、動詞・目的語のつながり)なども自然に身につけることができます。
音を聞き、口に出す
売れ筋の単語帳であれば、CD音源が別売されているはずです。「高いから…」とケチらず、これは絶対に活用してください。人間の記憶は、視覚だけでなく五感の複数を使ったほうが定着しやすいという研究があります。その五感の一つが聴覚です。学校や予備校の行き帰りの電車の中、もちろん家でも、単語帳を読む際は是非合わせて音源を聞いてください。正しい発音やアクセントも覚えることができますし、リスニング対策にもなります。また、聴くことは歩きながらでもできますので、単語に触れる時間自体が絶対的に増えるというメリットもあります。良いことしかありません。
また、聞いた単語や例文は是非口に出してください。「読む」と「聞く」はインプット作業ですが、これに「話す」というアウトプット作業を加えることによって、記憶はより強く定着し、また脳から引き出しやすくなります。電車の中など、声を出せない場所では、口を動かすだけでも構いません。また、高いレベルのリスニング力をつけたい人は、音を聞いた後、それをすぐに追いかけるように口に出す「シャドーイング」をするとさらに効果的です。シャドーイングの効果ややり方について詳しくは以下のリンクを参照してください。
「シャドーイング」google 検索結果
音読筆写してみる
「音読筆写」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?覚えたいものを声に出しながらノートに5回書くという勉強法です。5回書き終わったら、書いたものを見ずに、今書いたものを声に出して言ってみます。言うことができたら終了、もし言えなかったら、もう5回書き、見ないで言うことができるまでこれを繰り返します。五感をフル活用するこの勉強法は、暗記に絶大な効果があることが証明されています。
音読筆写をする場合、単語単位ではなく、例文で取り組んでください。ただし、この勉強法はそれなりに時間を要するのと、結構疲れるので、なかなか覚えられない単語に限定して行うのがよいでしょう。また、ちょっとしたコツが必要で、読むスピードに合わせて書き、しっかり意味を噛み締めながら、単純作業にならないよう注意する必要があります。音読筆写の効果ややり方について詳しくは以下のリンクを参照してください。
「音読筆写」google 検索結果
ノートにまとめる
誰にでもなかなか覚えられない単語はあります。例えば「単語の1~78は完璧に覚えているけれど、79の単語が定着していない」ということがあるでしょう。この場合、単語帳の1~78のページをめくることは無駄な作業ですが、逆に、79の単語は他の単語より多く見直す必要があります。この対策として、単語帳にふせんを貼るのは一つのアイディアですが、ふせんは取れてしまうことがありますし、増えすぎるとページがめくりにくくなってしまうのが難点です。
そこで、定着していない単語はノートにまとめることをおすすめします。効率的に見直しができますし、例文やコメントなど、付加情報をいくらでも書き込むことができます。特に、単語帳には2番目、3番目の意味は例文が載っていませんので、辞書などで調べてその例文を補充しておくことは、単語の意味を覚えるためにも必要な作業です。まとめたノートは、単語帳本体以上に何度も何度も読み直してください。
また、そもそも「完璧な単語帳」というものは存在しません。単語帳に載っていないけれど入試頻出の重要単語はいくらでもあります。単語の学習は単語帳だけに頼らず、長文等で目にした気になる単語は、その都度ノートにまとめていく心がけが必要です。それこそ生きた例文ですので、記憶にも残りやすいでしょう。
単語専用のノートにするのもよいですが、間違えた文法問題や、整理しておきたい知識なども一緒に盛り込んで、英語全般の「ミスノート」「暗記ノート」にするのもおすすめです。
薄い記憶を高頻度で反復する
「単語が覚えられない」と悩む受験生は多いですが、あまり自分を責めないでください。忘れるのは当たり前のことなのです。例えば「単語を1日20個覚えよう」と決意したとします。2000個の単語を覚えるのに100日かかります。100日後、最初の20個を覚えているかというと…難しいことは想像できますよね。
エビングハウスという有名な心理学者によると、以下のことが分かっています。
- ものを最初に覚えてから時間がたてばたつほど、覚え直すことが大変になる
- 反復回数が多いほど、多くのものを暗記できる
つまり、暗記するためには短期間で反復するべきなのです。具体的には、例えば、2000個を100日で覚えるのであれば、1日20個×100日×1周ではなく、1日100個×20日×5周したほうが効果的ということになります。もちろん、1日で100個を完璧に覚えられるはずはないので、1日単位では薄い記憶で構いません。この薄い記憶を塗り重ねていくことに意味があります。あまり完璧主義になりすぎないメンタルも重要です。
この方法は、初めの数ヶ月は単語を覚えた実感をなかなか得られないので、不安に感じるかもしれません。そんな場合は、2~3周目になったときに、特に覚えが悪いと感じる単語は「音読筆写」や「ノートにまとめる」など他の方法を併用して重点的に覚えるのもオススメです。
辞書を引く
単語帳を辞書代わりにしている受験生は多いようです。しかし、当然ながら知りたい単語が全て載っているわけではありませんし、載っていても、例文は少なく、解説もほとんどありません。単語帳から得られる情報ははっきり言って浅いです。
単語帳はあくまで暗記作業とその確認のために使うべきものです。気になる単語に出会ったときは、なるべく多く辞書を引いて、その単語を深く知る努力をしてください。辞書から得られる情報は意味だけではありません。発音、語源、加算・不可算、文型、語法、熟語、豊富な例文、用例解説、類語解説、派生語、等々…、もちろんその情報一つ一つに価値がありますし、さまざまな関連知識を得ることによって、その単語が印象深く記憶に刻み込まれます。骨太の英語力をつけようと思ったら絶対に辞書は欠かせません。
電子辞書も悪くはありませんが、家では是非紙辞書を使うことをおすすめします。周辺の情報がすぐに目に入るので電子辞書よりむしろ効率的ですし、書き込みできるのも魅力です。「紙辞書はひくのに時間がかかる」という人は単に慣れていないだけ。毎日ひいていれば、3秒でひけるようになります。
語源を意識する
接頭辞、接尾辞などの語源を意識することによって、単語は格段に覚えやすくなります。
例えば、接頭辞 trans– には「移動する」という意味があります。transform(形を移す ⇒ 変形させる)、transport(港を移す ⇒ 輸送する)、transmit(伝える)、translate(翻訳する)等々、どれも「移動」のイメージがあるのが分かるでしょう。
また、接尾辞 –tract には「引っぱる」の意味があります。extract(外に引っぱる ⇒ 抜き出す)、contract(一緒に引っぱる ⇒ 契約)、distract(違う方向へ引く ⇒ そらす)、attract(~の方へ引く ⇒ 興味を引く)等々、これらにも共通するものがあります。
こうした語源の情報を得るのに手っ取り早いのは辞書です。辞書を引いたら、是非語源の欄に注目する習慣をつけてください。語源の知識を積み重ねていくことによって、単語を覚えやすくなるだけでなく、知らない単語に出会ったときの推測力も格段に上がります。
アプリを活用する
辞書を引け、ノートにまとめろなどとアナログなアドバイスもしていますが、せっかくのデジタル社会ですので、文明の利器も大いに活用してください。
例えば、ターゲット1900を使っている人であれば、「公式アプリ」(Android|iphone)は是非購入してください。単語テストが素晴らしく充実しているのに加えて、聞き流し機能や検索機能も便利です。ターゲットは、このアプリがあるからこそ、選ぶ価値があると言っても過言ではありません。無料の「ターゲットの友」よりも、有料の「公式アプリ」を断然おすすめします。
単語王2202を使っている人であれば 「mikan」( Android|iphone)というアプリで単語テストをすることができます。有料の追加機能も魅力はありますが、コスパを考えると、こちらは無料版で十分かと思います。
また「quizlet」 (Webサイト |Android|iphone)という、オリジナルの単語帳を自作できるサービスも便利です。Excel からエクスポートできるので、スマホで一つ一つ入力する必要はありません。自分で作るのが面倒くさいという人は、他の人が既に作成した単語帳を使うこともできます。
他にもさまざまなアプリ、サービスがありますので、自分の好みに合ったものを探してみてください。
スキマ時間を活用する
皆さん、自分の1日の生活をじっくりと考えてみてください。1分1秒も無駄にしていないと言い切れますか?単語の暗記にはとにかく絶対的な時間が必要です。暗記が苦手な人ならなおさらのこと、スキマ時間は全て単語の暗記に費やすくらいの気合が必要です。
また、スキマ時間に勉強することには他のメリットもあります。暗記には集中力が必要ですが、短時間であれば集中力が持続しやすいということです。暗記こそスキマ時間にするべきと言えるかもしれません。
以下、単語の勉強に使えそうな時間を挙げます。
- トイレに入っている時間
- 電車に乗っている時間
- 歩いている時間(※音を聞けば可能です)
- 授業が始まる前
- 休み時間、昼休み
- 家で他の教科を勉強した後の休憩中(※気分転換を兼ねて)
- 風呂に入っているとき(※ジップロックに入れればスマホを使えます)
- 寝る前の10分(※睡眠中に記憶が定着すると言われています)
たかが数分も積もり積もれば、1年単位では膨大な時間になります。時間が有り余っている受験生など一人もいません。「時間とは与えられるものではなく、自分で作るもの」だと肝に銘じてください。
2冊目に挑戦する
「単語帳は、複数に手を出すより一冊を極めろ」という説があります。たしかに、売れ筋の単語帳には必ずそれなりの良さがありますので、購入した以上、その単語帳は一生懸命取り組むべきです。なるべく5周、最低でも3周は繰り返すべきでしょう。ただし、それを「極める」までやる必要があるかというと、入試まで残された時間にもよりますが、私はあえて2冊目の別の単語帳に挑戦したほうが効果は大きいと考えています。
なぜなら、単語帳にはどれもそれぞれの良さがあるからです。収録単語、例文、日本語訳の言い回し、掲載順、システム…当然ながらいろいろなことが異なります。言い換えれば、どの単語帳にも長所と短所があります。なかなか覚えられなかった単語が、違う単語帳で目にしたらすんなり頭に入るということもありますし、単純にどんな単語も多くの例文で見た方が理解は深まります。
ある程度今の単語帳をやり込んだと感じたら、「毛色の違う」または「より高レベルの」2冊目に挑戦してみてください。例えば、1冊目が「ターゲット」や「シス単」といったオーソドックス系だった人は、2冊目はコンセプトの異なる「速単」や「DUO」へ(またはその逆)。あるいは、オーソドックス系が好みの人は、より高レベルの「単語王」や「鉄壁」へ。「速単」が好みの人は「必修編」から「上級編」へ、といった具合です。